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システム開発の設計書で手戻りを防ぐ。信頼を高める書き方

システム開発の設計書で手戻りを防ぐ。信頼を高める書き方

システム開発の現場では、「せっかく設計書を作ったのに手戻りが頻繁に発生する」「実装と設計書が乖離してしまう」といった悩みを抱えているエンジニアは少なくありません。このような状況は、開発効率を低下させるだけでなく、プロジェクト関係者間の不信感にも繋がりかねません。

この記事では、単にドキュメント作成の技術的な側面だけでなく、プロジェクト関係者全員から信頼を得て、開発プロセス全体を円滑に進めるための設計書の書き方について解説します。この記事を通して、設計書が単なる「作成作業の負担」ではなく、プロジェクトの「合意形成と品質保証を強力に推進するツール」へと変わるための具体的な原則と実践的な方法を学んでいきましょう。

なぜ設計書で手戻りは起きるのか?信頼される設計書がもたらす価値

システム開発の現場では、設計書を作成したにもかかわらず、手戻りや認識の齟齬が頻繁に発生し、プロジェクトの遅延や品質低下につながることが少なくありません。せっかく時間をかけて作成した設計書が「意味のないもの」になってしまうという課題に直面している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、設計書は単なる「作成すること」が目的ではありません。プロジェクト関係者全員が同じイメージを持ち、システムの品質を担保し、将来にわたって価値を生み出すための重要なツールです。では、なぜ設計書が形骸化し、手戻りの原因となるのでしょうか。このセクションでは、設計書が抱える一般的な問題点と、逆に「信頼される設計書」がプロジェクトにもたらす本質的な価値について掘り下げていきます。

信頼される設計書とは、実装者だけでなく、顧客や非技術者を含むすべてのステークホルダーにとって「共通言語」となり、プロジェクトを円滑に進めるための「羅針盤」となるものです。そうした設計書を正しく作成し活用することで、開発チームは自信を持って実装に取り組むことができ、結果として高品質なシステムを効率的に構築できるようになります。

設計書が「形骸化」する3つの原因

システム開発の現場で設計書が期待通りの役割を果たせず、形骸化してしまう原因は多岐にわたりますが、特に多く見られるのは次の3点です。

1つ目は、「実装と乖離する」ことです。納期が差し迫っている状況や、急な仕様変更があった際に、設計書の更新が後回しにされてしまうケースは少なくありません。その結果、設計書と実際のシステム動作が異なり、誰も設計書を参照しなくなってしまうのです。これでは、設計書が持つ本来の価値が失われ、開発後半での大きな手戻りや、デグレードの原因にもなりかねません。

2つ目は、「担当者しか理解できない」ことです。設計書が特定の担当者の暗黙知や専門用語に溢れており、他のメンバーが読んでも内容を正しく理解できない状態です。属人化が進むことで、設計レビューが形骸化し、チーム全体での知識共有が進みません。結果として、担当者が異動したり退職したりすると、その設計の意図や背景が分からなくなり、将来のメンテナンスや機能追加に大きな支障をきたします。

3つ目は、「目的が曖昧」なことです。そもそも「誰に何を伝えるための設計書なのか」という目的が不明確なまま作成されることがあります。顧客への説明資料なのか、開発者向けの実装指示書なのか、あるいは運用担当者向けの引継ぎ資料なのか、その目的によって記述すべき内容や粒度は大きく異なります。目的が曖昧な設計書は、読み手によって解釈が異なり、プロジェクト関係者間で認識の齟齬を生み出す温床となり、無駄なコミュニケーションを発生させる原因となります。

信頼される設計書がプロジェクトにもたらす3つの価値

質の高い、信頼される設計書は、単なるドキュメント以上の価値をプロジェクトにもたらします。その本質的な価値は、主に以下の3つの側面に集約されます。

1つ目の価値は、「手戻りの削減と品質向上」です。詳細で具体的な設計書を作成することで、要件の抜け漏れや矛盾、実装上の問題点を開発の早期段階で発見できます。これにより、開発の終盤やリリース後に大規模な修正が発生するリスクを大幅に低減し、結果的に開発コストと時間の節約につながります。また、事前にシステムの振る舞いを詳細に検討するため、実装の品質が向上し、堅牢で安定したシステム構築に寄与します。

2つ目の価値は、「円滑な合意形成」です。信頼される設計書は、システム開発に関わるすべての人々、すなわち顧客、プロジェクトマネージャー、開発者、テスターなどが、同じ視点でシステムの仕様を理解するための「共通言語」となります。図や表を効果的に活用し、具体的な表現で記述された設計書は、非技術者を含むステークホルダーとの間で、システムに対する共通のイメージを容易に形成することを可能にします。これにより、レビューや承認プロセスがスムーズに進み、不要なコミュニケーションコストを削減できます。

3つ目の価値は、「チームのナレッジ蓄積と属人化の解消」です。設計書に、なぜその設計判断に至ったのかという背景や意図が明記されていれば、それは単なる仕様の羅列ではなく、チームの貴重な知識資産となります。この資産は、新しいメンバーがプロジェクトに加わった際のオンボーディングを迅速化し、メンバーの入れ替わりがあってもプロジェクトの継続性を保つ助けとなります。さらに、将来の機能追加や改修、障害発生時の原因調査において、設計の意図を正確に把握できるため、属人性を排し、持続可能なチーム運営を実現するための基盤となります。

システム開発における設計書の役割と種類

システム開発の現場で避けて通れない設計書は、プロジェクトを成功に導くための羅針盤です。しかし、その役割や種類、目的について漠然とした理解のまま作成を進めてしまうと、思わぬ手戻りや認識齟齬の原因となることがあります。このセクションでは、設計書を「ただ作るもの」ではなく「活用するもの」として捉え直すために、その基本的な役割と種類について改めて確認していきます。

設計書の適切な理解は、開発者だけでなく、プロジェクトマネージャーや顧客を含む全ての関係者にとって重要です。ここでは、設計書がプロジェクト全体にもたらす価値を最大化できるよう、その本質的な意義を深く掘り下げて解説します。

設計書の目的:関係者間の「共通言語」であり未来への「資産」

設計書の目的は多岐にわたりますが、最も重要なのは、開発チーム内はもちろん、顧客や他部署を含む全ての関係者がシステムについて共通の認識を持つための「共通言語」となることです。言葉だけでは伝わりにくい複雑なシステムも、設計書という形にすることで、誰もが同じイメージを共有し、理解を深めることができます。これにより、曖昧な解釈による誤解を防ぎ、プロジェクトのコミュニケーションを円滑にします。

また、設計書はシステムが完成したら役目を終えるものではありません。むしろ、完成後もシステムの「未来への資産」としてその価値を発揮し続けます。例えば、将来の機能追加や改修、あるいは万が一の障害発生時の原因究明など、システムのライフサイクル全体を通して参照される重要なドキュメントです。なぜそのように設計したのかという意図や背景が明記されていれば、担当者が変わっても設計思想が受け継がれ、技術的負債となることを防ぎ、持続可能なシステム運用に貢献します。

「設計書」と「仕様書」は何が違う?

システム開発において、「設計書」と「仕様書」という言葉はしばしば混同されがちですが、これらには明確な違いがあります。まず「仕様書」は、システムが「何(What)」をすべきか、どのような機能や性能が求められているかを定義する文書です。これは主に要件定義フェーズで作成されることが多く、ユーザーやビジネスサイドの視点から、システムに期待される振る舞いを記述します。

一方「設計書」は、その「何(What)」を「どのように(How)」実現するかを具体的に記述する文書です。システム内部の構造や処理ロジック、データベースの構成など、開発者が実際にシステムを構築するために必要な技術的な詳細を記します。したがって、仕様書が「目的」を定義するのに対し、設計書は「手段」を定義すると言えるでしょう。仕様書が開発の方向性を定め、設計書が具体的な実装方法を導くという関係性になります。

開発工程と設計書の関係【要件定義・基本設計・詳細設計】

システム開発は複数の工程を経て進められますが、それぞれの工程で異なる種類の設計書が作成され、相互に連携しています。一般的なウォーターフォールモデルを例に、その関係性を見ていきましょう。まず、システムの「何を(What)」実現するかを明確にする「要件定義」工程で、要求仕様書などの文書が作成されます。これは、顧客の要望やビジネス要件を明確にし、システムに求められる機能や性能を定義するものです。

次に、要件定義で合意された内容に基づき、「基本設計(外部設計)」工程に進みます。ここでは、ユーザーから見えるシステムの振る舞いやインターフェースなど、システムの外部的な側面を設計します。業務フロー図、画面遷移図、画面レイアウト設計書などがこれにあたります。この段階の設計書は、主に顧客やプロジェクトマネージャーとの合意形成に用いられます。そして、基本設計で定義された内容を「どのように(How)」実現するかを、開発者が実装可能なレベルまで具体化するのが「詳細設計(内部設計)」工程です。クラス図、シーケンス図、データベースのテーブル定義書、API仕様書など、システム内部の構造や処理ロジックを詳細に記述します。これらの設計書は、前の工程の設計書を入力情報として、次の工程の活動を具体的にガイドする役割を果たします。

手戻りを防ぐ!信頼を高める設計書の書き方【7つの原則】

システム開発における設計書は、単なるドキュメント作成作業にとどまらず、プロジェクトの成否を左右する重要な役割を担います。しかし、「形骸化」した設計書によって手戻りが発生し、開発効率が低下するケースも少なくありません。

このセクションでは、設計書を「作業の負担」から「合意形成と品質保証の強力なツール」へと変えるための、具体的で普遍的な7つの原則をご紹介します。これらの原則は、日々の業務で実践できる思考法であり、信頼される設計書を作成するための羅針盤となるでしょう。読み終わった後には、今日から設計書作成に対する意識が変わり、プロジェクトをよりスムーズに進めるための第一歩を踏み出せるはずです。

原則1:目的と読み手を冒頭に明記する

設計書を作成する際、最も基本的ながら見落とされがちなのが「この設計書が誰のために、何のために存在するのか」を明確にすることです。設計書の冒頭に、文書の目的と主な読み手を具体的に記載することで、書き手は記述すべき情報の粒度や範囲を適切に判断できるようになります。

たとえば、「この設計書は、〇〇機能の実装を担当する開発者が、データベースのテーブル構造と処理ロジックを理解し、円滑に開発を進めるために作成されたものです」と明記することで、読み手は文書の全体的な意図を素早く把握でき、必要な情報に効率的にアクセスできるようになります。これにより、読み手と書き手の間で認識のずれが減り、コミュニケーションコストの削減にもつながるのです。

原則2:全体像から詳細へ(Top-Down)の構成で書く

設計書の情報構成は、読み手の理解度を大きく左右します。システム開発における設計書は、まず全体像を提示し、そこから徐々に詳細へと掘り下げていく「トップダウン」のアプローチで構成することが効果的です。具体的には、システムのアーキテクチャ概要や主要な業務フロー、機能の一覧など、大局的な情報から提示し、その後に各機能やモジュールの詳細な設計内容へと進みます。

この構成により、読み手は個々の詳細な情報がシステム全体のどの部分に位置づけられ、どのような役割を果たすのかを理解しながら読み進めることができます。複雑なシステムであっても、全体像が見えていることで迷子にならず、設計の意図を正確に把握しやすくなるため、結果として誤解や手戻りを防ぐことにつながります。

原則3:誰が読んでも迷わない「一意で具体的な表現」を徹底する

設計書において、曖昧な表現や解釈の余地がある言葉は、認識齟齬の温床となります。「適宜」「良しなに」「速やかに対応」といった抽象的な表現は避け、誰が読んでも同じ意味に受け取れる「一意で具体的な表現」を徹底することが重要です。

例えば、「高速に処理する」という表現ではなく、「該当処理のレスポンスタイムを平均2秒以内とする」のように、可能な限り定量的な目標値を設定し記述します。また、プロジェクト内で使用する専門用語や略語については、あらかじめ「用語集」を作成し、一貫した定義を設けることで、読み手による解釈のばらつきを防ぐことができます。これにより、開発チーム内はもちろん、顧客や他部署のステークホルダーとの間で正確な情報共有が可能となり、手戻りのリスクを大きく低減できるでしょう。

原則4:図や表を使い「一目でわかる」工夫をする

文章だけでは伝わりにくい複雑な情報や関係性は、図や表を積極的に活用することで、視覚的に「一目でわかる」設計書にすることができます。システム開発においては、シーケンス図で処理の流れを、ER図でデータベースの構造を、画面遷移図でユーザーインターフェースの動作を、状態遷移図でオブジェクトの状態変化を表現するなど、目的に応じて適切な図を使い分けることが重要です。

これらの視覚的な要素は、非技術者である顧客やプロジェクトマネージャーにとっても理解しやすく、合意形成をスムーズに進める上で非常に有効です。複雑なロジックやシステムの全体像を直感的に把握できるため、認識のズレを早期に発見し、手戻りを未然に防ぐことにもつながります。

原則5:「なぜ」その設計なのか理由や背景を明記する

設計書が単なる仕様の羅列で終わってしまうと、将来の改修時に「なぜこのような設計になっているのか」が分からず、新たな技術的負債を生む原因となりかねません。これを防ぐためには、設計上の意思決定に至った「なぜ(Why)」を明確に記録することが極めて重要です。

例えば、特定の技術スタックを選定した理由、他の選択肢と比較した際の優位点、考慮した制約条件、あるいは性能と保守性のトレードオフなど、設計の背景や意図を明記します。これにより、設計書は単なる成果物ではなく、設計者の思考プロセスを伝える貴重なナレッジとなり、将来の担当者が改修を行う際に設計意図を正確に理解し、適切な判断を下すための強力な手助けとなります。結果として、システムの長期的な健全性を保ち、不必要な手戻りを防ぐことにもつながるでしょう。

原則6:見落としがちな「非機能要件」を定義する

システム開発において、ユーザーが直接目にする「機能要件」に比べて、「非機能要件」は軽視されがちです。しかし、非機能要件はシステムの品質、性能、信頼性、保守性といった根幹を支える要素であり、これらを明確に定義せず開発を進めると、後になって大きな問題となる可能性があります。

具体的には、システムのレスポンス速度やスループットといった「性能要件」、稼働率や障害回復時間などの「可用性要件」、認証・認可やデータ保護に関する「セキュリティ要件」、システムの拡張性や改修のしやすさを示す「保守性要件」、監視やバックアップの仕組みといった「運用性要件」などが挙げられます。これらの非機能要件を具体的にリストアップし、それぞれに目標値や測定方法を記載することで、システムの品質に対する共通認識を醸成し、後々の手戻りや品質問題を防ぐことができます。

原則7:変更履歴を管理し、常に最新の状態を保つ

システム開発プロジェクトは常に変化するため、設計書も一度作成したら終わりではなく、プロジェクトの進行とともに継続的に更新される「生き物」であるという認識が重要です。設計書が陳腐化し、実装との乖離が生じると、誰も参照しなくなり、結果的に手戻りの原因となります。

これを防ぐためには、設計書に対する変更履歴を適切に管理するルールを設けることが不可欠です。具体的には、設計書の先頭や末尾に、バージョン番号、変更日付、変更者、変更内容、そして変更理由を記載するセクションを設けます。さらに、Gitなどのバージョン管理システムを利用して設計書自体を管理することで、変更の差分を容易に追跡できるようになり、常に最新かつ信頼できる状態を保つことが可能です。この継続的な管理が、設計書をプロジェクトの強力な資産として機能させるための鍵となります。

各設計書で押さえるべきポイントと記載項目例

ここからは、システム開発の各工程で作成される主要な設計書に焦点を当て、それぞれの目的と具体的な記載項目について詳しく解説します。理論的な話だけでなく、実際に現場で役立つ実践的なテンプレートとしても活用できるよう、具体的なドキュメント構成や項目例を提示していきます。

設計書は、開発フェーズごとに求められる情報や読み手が異なります。このセクションでは、基本設計(外部設計)と詳細設計(内部設計)という二つの重要な工程に分けて、それぞれの設計書がどのような役割を担い、どのような情報を盛り込むべきかを見ていきましょう。プロジェクトの特性や規模に応じて柔軟に取捨選択できるよう、網羅的に情報をお届けします。

基本設計書(外部設計):ユーザー視点でシステムの振る舞いを定義する

基本設計書、または外部設計書は、システムが完成した際に、ユーザーがどのような操作を行い、どのような情報が表示され、どのような結果が得られるか、といった「システムの振る舞い」を定義することを目的としています。この工程では、システム内部の実装方法には深く踏み込まず、あくまでユーザーや外部システムから見たときの機能やインターフェースを明確にします。

この設計書の主な読み手は、システムを利用する顧客、プロジェクト全体の進行を管理するプロジェクトマネージャー、そしてこの基本設計をもとに具体的な実装方法を検討する詳細設計者です。特に、顧客との間でシステムの要件や仕様について最終的な合意を形成する重要なドキュメントとなります。認識の齟齬をなくし、後工程での手戻りを防ぐためにも、この段階での丁寧な合意形成が不可欠です。

基本設計書に含めるべき項目例

基本設計書には、プロジェクトの規模や特性に応じてさまざまなドキュメントが含まれます。以下に、代表的な記載項目とドキュメント例を挙げます。

  • システム構成図:システムの全体像と各コンポーネント、外部システムとの連携を示す図です。
  • 機能一覧:システムが提供する全ての機能をリストアップし、それぞれの概要を記述します。
  • 業務フロー図:ユーザーやシステムが行う業務の流れを視覚的に表現し、システムが関与するポイントを明確にします。
  • 画面一覧・画面遷移図:システムの主要な画面をリスト化し、画面ごとの関連性や操作による画面の移り変わりを図で示します。
  • 画面レイアウト設計書:各画面の構成要素(入力フィールド、ボタンなど)の配置や役割を定義します。
  • 帳票レイアウト設計書:システムが出力する帳票のデザインや記載項目を詳細に定義します。
  • バッチ処理一覧:定期的または特定の条件で自動実行される処理のリストと概要を記述します。
  • 外部インターフェース定義書:外部システムとの連携が必要な場合に、そのデータの受け渡し方法や形式を定義します。
  • ER図(概念モデル):システムのデータ構造を概念的に表現し、主要なエンティティ(実体)とその関係性を図で示します。

これらの項目を網羅的に記述することで、システム全体の仕様を関係者間で共通認識として持つことができ、後工程での混乱を防ぎます。

詳細設計書(内部設計):実装者が迷わずコードを書けるようにする

詳細設計書、または内部設計書は、基本設計書で定められたシステムの振る舞いを、具体的にどのように実装するかを定義する文書です。この設計書の最大の目的は、プログラマーが迷うことなくコーディングを進められるよう、実装に必要なすべての情報を明確にすることにあります。

この設計書の主な読み手は、実際にコードを書く開発者自身です。そのため、技術的な側面が強く、データ構造、処理ロジック、モジュール間の連携など、システム内部の具体的な構造を詳細に記述します。基本設計書で定義された要件とのトレーサビリティ(追跡可能性)を確保することも重要です。つまり、詳細設計の各要素が、基本設計のどの要件を満たすものなのかが明確になっている必要があります。

詳細設計書に含めるべき項目例

詳細設計書には、実装に直結する多岐にわたる項目が含まれます。以下に、代表的な記載項目とドキュメント例を挙げます。

  • クラス図・コンポーネント図:オブジェクト指向開発において、クラスの構造や関係性、コンポーネント間の依存関係を図で示します。
  • シーケンス図:特定の機能が実行される際に、オブジェクトやコンポーネントがどのような順序でメッセージを交換するかを時系列で表現します。
  • モジュール構成図:システムの各モジュール(プログラム単位)とその階層構造、依存関係を図で示します。
  • テーブル定義書(物理モデル):データベースの具体的なテーブル構造、各カラムのデータ型、制約、インデックスなどを詳細に定義します。
  • ファイル定義書:システムが扱うファイル(入出力ファイル、ログファイルなど)の形式やレコード構造を定義します。
  • API仕様書:システムが提供するAPIApplication Programming Interface)のエンドポイント、リクエスト/レスポンスの形式、認証方法などを明確にします。
  • 処理フロー図(詳細ロジック):特定の機能やバッチ処理における、プログラム内部の具体的な処理手順や条件分岐を図で表現します。
  • 画面項目定義書:画面上の各入力項目や表示項目について、データ型、桁数、入力チェックロジック、初期値、必須/任意などを詳細に定義します。

これらの項目は、プログラミング規約や命名規則と密接に関連しており、一貫性のある設計と実装を可能にします。

設計書の品質をチームで維持するための仕組みづくり

個人のスキルだけに頼らず、チーム全体で設計書の品質を高め、維持していくためには、継続的な改善を促す仕組みづくりが不可欠です。このセクションでは、設計書の「標準化」「レビュー」「自動化」という3つの観点から、具体的な手法と、それらをチームに定着させるためのアプローチをご紹介します。これらの仕組みを取り入れることで、属人性を排除し、設計書が常に「生きたドキュメント」として機能する状態を目指します。

設計書は一度作成して終わりではなく、プロジェクトの進行とともに変化し、成長していくものです。そのためには、作成時だけでなく、その後の運用・保守フェーズまで見据えた仕組みが必要です。ここでご紹介する内容は、明日からでも実践できるものばかりですので、ぜひご自身のチームやプロジェクトに取り入れてみてください。

テンプレートとチェックリストで品質を標準化する

設計書の品質を均一化し、作成効率を向上させるためには、テンプレートの活用が非常に有効です。プロジェクトの開始時に、記載すべき項目や図の種類、表現方法などを明記したテンプレートを用意することで、作成者は迷うことなく記述を進められ、読み手は期待する情報がどこにあるかをすぐに把握できます。

さらに、レビューの観点をまとめたチェックリストも品質標準化に貢献します。チェックリストを使用することで、レビューの属人性を排除し、経験の浅いメンバーでも一定の品質基準でレビューを行えるようになります。これにより、仕様の抜け漏れや記述の曖昧さといった問題を機械的に防ぎ、設計書全体の品質を底上げできます。

効果的なレビューで属人性を排除し、ミスを防ぐ

設計レビューは、単なる「間違い探し」の場ではありません。品質向上とナレッジ共有の重要な機会として活用することで、設計書はさらに洗練され、チーム全体のスキルアップにもつながります。

効果的なレビューを行うためには、まずレビューの目的を事前に明確に共有することが大切です。例えば、「このレビューでは、ユーザーからの見え方と業務フローの整合性を確認する」といった具体的な目的を設定します。次に、適切なレビュワーを選定します。設計者とは異なる視点を持つ人(例えば、テスト担当者や非技術系のステークホルダー)を含めることで、多角的な視点からのフィードバックが得られます。

また、レビューでは指摘事項だけでなく、設計の優れた点や工夫した点も積極的に評価することで、建設的なレビュー文化を醸成できます。レビュープロセスを体系化し、定期的に実施することで、属人性を排除し、早期にミスを発見・修正することが可能になります。

設計と実装の乖離を防ぐ「生きているドキュメント」の考え方

設計書が「形骸化」する最大の原因の一つは、実装との乖離です。手動での更新は負担が大きく、変更のたびに設計書を修正する工数を確保することは容易ではありません。そこで注目されるのが、「生きているドキュメント(Living Documentation)」という考え方です。

生きているドキュメントとは、設計書が常に最新の状態を保ち、実装と密接に連携している状態を指します。これを実現する方法の一つに、コードからドキュメントを自動生成するアプローチがあります。例えば、OpenAPI (Swagger) 仕様を用いてAPIの定義を記述すれば、そこからAPIクライアントコードやインタラクティブなAPIドキュメントを自動生成できます。これにより、APIの実装とドキュメントが常に同期し、乖離を防ぐことができます。

また、コード内のコメントやアノテーションからドキュメントを生成するツール(JavaJavadocPythonSphinxなど)を活用することも有効です。開発者がコードにコメントを追加する際に、それがそのままドキュメントの一部となるため、ドキュメント更新の負担を大幅に軽減できます。このようなアプローチを取り入れることで、設計書は「作成したら終わり」ではなく、「実装とともに変化し、常に生きている」状態を保つことが可能になります。

設計書作成を効率化するおすすめツール

設計書作成と管理の効率を飛躍的に向上させるためには、適切なツールの活用が不可欠です。ここでは、目的別にいくつかのおすすめツールをご紹介します。

まず、ドキュメント管理・共有ツールとしては「Confluence」や「Notion」が挙げられます。これらは、チーム内で設計書を一元管理し、リアルタイムでの共同編集やコメント機能により、スムーズな情報共有とフィードバックを実現します。

作図ツールでは、「draw.io」や「Cacoo」が汎用性が高くおすすめです。これらは、フローチャートやUML図、ワイヤーフレームなど、様々な種類の図を直感的に作成できます。より複雑なシステム構成図やデータベースのER図、シーケンス図などをテキストで記述し、自動で図を生成できる「PlantUML」も効率化に貢献します。

API設計に特化したツールとしては、「Swagger Editor」や「Stoplight」があります。これらを使えば、OpenAPI仕様に沿ったAPI定義を効率的に作成でき、そこからドキュメントやモックサーバーを自動生成することも可能です。

最後に、すべての設計書をバージョン管理するための「Git」や「Subversion」といったバージョン管理システムは必須です。これにより、設計書の変更履歴を追跡し、複数人での同時編集や変更内容の比較を容易に行うことができます。

まとめ

ここまで、システム開発における設計書がなぜ手戻りを生み、なぜ形骸化するのかという問題提起から始め、信頼される設計書がもたらす価値、そして手戻りを防ぎ信頼を高めるための7つの原則、さらには工程別の記載項目やチームで品質を維持する仕組みづくりについて解説してきました。

信頼される設計書とは、単に仕様を網羅したドキュメントではありません。それは、開発の初期段階で仕様の抜け漏れや認識の齟齬を早期に発見し、開発終盤での大規模な手戻りを未然に防ぐ「品質保証のツール」です。また、顧客や他部署のステークホルダーを含む関係者全員が同じイメージを共有し、円滑な合意形成を促進する「共通言語」でもあります。

そして何よりも、設計の意図や背景、判断の理由が明文化されることで、それがチーム全体の知識資産として蓄積され、メンバーの入れ替わりや将来の改修に強い、持続可能なチームを築くための「ナレッジベース」となるのです。設計書作成は、単なる作業負担ではなく、プロジェクトの成功とチームの成長に直結する重要な投資であることをぜひご理解いただき、今日から設計書作成へのアプローチを見直していただければ幸いです。

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