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スクラッチ開発とは?パッケージとの違い・メリット・費用相場を徹底解説

スクラッチ開発とは?パッケージとの違い・メリット・費用相場を徹底解説

スクラッチ開発とは

スクラッチ開発とは、既存のパッケージソフトやシステムを使わず、ゼロから完全オーダーメイドでシステムを構築する開発手法です。自社の業務フローにぴったり合ったシステムを実現できる一方で、開発費用は500万円〜2,000万円、開発期間は6ヶ月〜数年を要するため、慎重な検討が必要です。

本記事では、スクラッチ開発の基礎知識から、パッケージ開発との違い、メリット・デメリット、費用相場、開発会社の選び方まで、システム発注担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。「本当にスクラッチ開発が必要なのか?」を判断するための具体的なチェックリストもご用意していますので、ぜひ最後までご覧ください。

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1. スクラッチ開発とは?基礎知識

1-1. スクラッチ開発の定義

スクラッチ開発とは、既存のソフトウェア製品やパッケージシステムを改修するのではなく、ゼロの状態から新規にシステムやソフトウェアを開発する手法のことです。「スクラッチ(scratch)」という英単語には「ひっかく」という意味がありますが、「from scratch」というイディオムで「ゼロから」「何もないところから」といった意味を持ちます。

開発時には、要件定義から設計まで入念に行い、顧客企業の要望にあった開発を進めます。既存のフレームワークやライブラリなどは部分的に活用することもありますが、基本的には一からプログラミングを行って、システムやソフトウェアを構築します。

そのため、コストと開発期間はかかりますが、顧客企業の要望に完全にマッチしたオーダーメイドのシステムを開発することが可能です。企業独自の業務フローや特殊な要件を持つ場合に、最も適した開発手法といえるでしょう。

1-2. フルスクラッチ開発との違い

スクラッチ開発の中でも、テンプレートやフレームワークといった、ひな型となるプログラムをまったく使用しない場合を「フルスクラッチ開発」と呼びます。

スクラッチ開発では、部分的に既存の業務ライブラリやフレームワークを使うこともありますが、フルスクラッチ開発ではそのような既存機能の利用を一切行いません。純粋にゼロから開発することを強調する意味で、フルスクラッチ開発と呼ぶことがありますが、実務上は完全なフルスクラッチはコストが膨大になるため、実績あるフレームワークを活用したスクラッチ開発が一般的です。

2. スクラッチ開発とパッケージ開発の違い【比較表あり】

2-1. 開発方式の根本的な違い

スクラッチ開発と対照的な開発手法が「パッケージ開発」です。パッケージ開発とは、既存のシステムやソフトウェアを利用した開発方式のことを指します。すでに完成された汎用的なパッケージシステムを元に、顧客企業の希望に合わせて設定変更や画面デザインの変更、あるいは少量の追加コーディングなどによってカスタマイズを行います。

既存のシステムやソフトウェアに、必要に応じてカスタマイズや設定変更を行って提供するため、ゼロから開発するスクラッチ開発とは真逆の手法ともいえます。パッケージ開発には、開発時間とコストを大幅に削減できるというメリットがありますが、そのかわりカスタマイズ範囲が限定的で、自社の業務フローをシステムに合わせる必要がある点がデメリットです。

2-2. 費用・期間・柔軟性の比較表

スクラッチ開発とパッケージ開発の違いを、重要な項目で比較すると以下のようになります。

比較項目 スクラッチ開発 パッケージ開発
初期費用 500万円〜数億円 50万円〜500万円
開発期間 6ヶ月〜数年 1ヶ月〜6ヶ月
カスタマイズ性 ◎ 完全自由 △ 制限あり
独自機能の実現 ◎ 可能 × 困難
業務適合度 ◎ 完全適合 △ 業務側の調整必要
拡張性 ◎ 高い △ パッケージの範囲内
初期コスト × 高額 ◎ 低額
運用保守費 △ 自社またはベンダー負担 ◎ ベンダーサポートあり
長期運用 ◎ 自社管理可能 × サポート終了リスク
開発リスク × ベンダー選定が重要 ◎ 低い
向いている企業 コア業務、独自要件あり、予算潤沢 ノンコア業務、標準的業務、予算限定的

2-3. どちらを選ぶべきか?判断フローチャート

システム開発の方式を選択する際は、以下のフローチャートを参考にしてください。

ステップ1: 独自機能が必須か?

  • YES → ステップ2へ
  • NO → パッケージ開発を検討

ステップ2: 予算1,000万円以上を確保できるか?

  • YES → ステップ3へ
  • NO → パッケージ+カスタマイズを検討

ステップ3: 開発期間1年以上待てるか?

  • YES  スクラッチ開発を検討
  • NO → MVP(最小限の機能)で段階的リリースを検討

ステップ4: コア業務に直結するシステムか?

  • YES  スクラッチ開発を推奨
  • NO → パッケージ開発でも十分な可能性あり

3. スクラッチ開発のメリット5選

スクラッチ開発には、パッケージ開発では実現できない多くのメリットがあります。ここでは主要な5つのメリットを詳しく解説します。

3-1. 業務フローに完全適合したシステム構築

スクラッチ開発の最大のメリットは、自社の業務フローに完全に適合したシステムを構築できる点です。ゼロの状態から開発し、オーダーメイドで顧客企業の要望を取り入れて開発するため、自由度の高いシステムを実現できます。

パッケージ開発の場合、ある程度仕様や機能が決まっており、画面デザインを変える、設定値を変えるなどの範囲でしか要望を反映できません。場合によっては、システムに合わせて業務フローを変更しなければならないこともあります。

しかしスクラッチ開発なら、自社のビジネスや業務の流れにぴったりとあったシステムやソフトウェアを開発できます。使い勝手を最優先に考慮し、求める機能を漏れなく搭載することで、自社にとって理想的なシステムを構築できるでしょう。

3-2. 独自機能による競争優位性の確保

他社が行っていない事業を新たに立ち上げる場合や、独自のビジネスモデルを展開する場合、既存のパッケージでは対応できないケースがあります。スクラッチ開発は、既存システムを用いることなくゼロの状態からシステムを構築するため、独自性の高い斬新なシステムを構築することが可能です。

競合他社との差別化を図り、市場での優位性を確保したい場合には、スクラッチ開発が最適の方法といえます。自社のビジネス戦略に直結する独自機能を実装することで、競争力の高いサービスを提供できます。

要件定義で必要な機能のみを組み込むため、不要な機能が含まれることもありません。要件定義が最適化された、必要かつ十分な機能を持つシステムやソフトウェアを実現できます。

3-3. 高い拡張性・柔軟性

システムやソフトウェアを開発する際は、将来的な拡張性や柔軟性も重要な要素です。リリース後にカスタマイズ対応が可能な契約にしている場合は、実際に使ってみて生じた問題や必要な機能などについて、カスタマイズを行えます。

たとえば、現時点ではシステムのユーザー数が少なくても、今後増える可能性がある、必要な機能が増えそうなどの場合は、拡張性や柔軟性を考慮しておかなければなりません。スクラッチ開発では、あとからでも機能追加や機能変更ができ、開発範囲を狭めることなく柔軟に対応が可能です。

ただし、何でも自由に機能追加や変更ができるわけではなく、その分追加コストや開発期間が必要なことに注意が必要です。また、開発途中に何度も仕様変更を入れると、品質の低下につながる恐れもあります。

3-4. 長期にわたり使えるシステムを構築できる

パッケージ開発の場合、開発企業が倒産したり、サービスを終了したりすると、サポートが打ち切られてシステムを使えなくなることがあります。実際に、開発企業の資金繰りが悪化したため、予告なしに突然サービスが終了するというケースも発生しています。

しかし、スクラッチ開発によって構築されたシステムなら、開発企業の倒産やサポート打ち切りによってシステムが終了になるといった恐れはありません。自社にシステム開発部門を設けている場合や、信頼のおけるシステム開発会社との協力体制があれば、必要に応じて迅速にシステム改修を行うことが可能です。その結果、システムが陳腐化することもなく、長期間システムを使い続けることができます。

ただし、スクラッチ開発でも開発企業が倒産してしまうと、そのあとのサポートを受けられなくなるため、信頼できる安定して業務を続けている企業を選ぶ必要があります。

3-5. システムの著作権を保持できる

スクラッチ開発においては、一般的に発注者であるユーザー企業と、受注者であるシステム開発会社が存在します。著作権法上は、システム開発会社に著作権があると定められていますが、契約書に「著作権の帰属」に関する条文を入れることで、著作権をシステム開発会社からユーザー企業へ移転させることができます。

システムの著作権を自社側で持ちたい際は「受託者は委託者に対し、成果物の著作権を譲渡する」といった旨の条文を契約書に規定するようにしましょう。自社でシステムの著作権を保持することで、将来的な改修や他社への譲渡なども自由に行えるようになります。

4. スクラッチ開発のデメリット4選

スクラッチ開発には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。導入を検討する際は、これらのデメリットも十分に理解しておく必要があります。

4-1. 開発費用が高額(500万円〜2,000万円)

スクラッチ開発では、ゼロの状態から顧客企業の要望にあわせてオーダーメイドで開発を進めます。そのため、システムの枠組みが決まっているパッケージ開発と比べると、費用が非常に高くなるという特徴があります。

スクラッチ開発では、顧客の要望を聞いて要件を洗い出して固め、設計や製造を一から行い、すべてのテストを実施します。そのため開発コストは高額になりがちで、小規模システムでも500万円〜1,000万円、中規模システムでは1,000万円〜5,000万円、大規模システムになると5,000万円〜数億円にのぼることもあります。

一方のパッケージ開発では、決まったテンプレートをカスタマイズするため、設計や製造、テスト作業などがスクラッチ開発に比べ大幅に少なく、コストを抑えることが可能です。限られた予算の中でシステムを構築しなければならない場合、コスト比較の段階でスクラッチ開発は除外されてしまうケースも多いです。

4-2. 開発期間が長い(6ヶ月〜数年)

スクラッチ開発では、顧客の要望を聞いて要件定義を行い、ゼロから設計や製造、テストを実施します。そのため、開発期間も当然長くなります。一般的に、小規模システムで6ヶ月〜1年、中規模システムで1年〜2年、大規模システムになると2年〜3年以上という長い開発期間を要します。

一方でパッケージ開発は、すでにできあがっているものをカスタマイズするだけなので、1ヶ月〜6ヶ月程度と開発期間は短いことが多いです。スピード感が求められる現代、特にECサイトなどのトレンドの移り変わりが激しい分野においては、採用しづらい開発手法といわざるを得ません。

スクラッチ開発を依頼する場合は、十分に開発期間をとっておく必要があるでしょう。また、開発期間が長いため、その間にビジネス環境が変化し、業務プロセスが変化してしまう可能性があり、当初の要件定義から業務の実態がずれてしまうリスクも考慮する必要があります。

4-3. 開発ベンダー選定の難しさ

スクラッチ開発では、開発・運用時に高度な技術力が求められるため、開発会社を選ぶ際には、開発担当者のスキルや経験について十分に調べる必要があります。

パッケージ開発の場合は、すでに何度も同じ形の開発やカスタマイズ、運用が行われているため、新たな問題点なども生じにくく、実績のある作業を行うことがほとんどです。しかしスクラッチ開発では、顧客の要望にあわせて新しいシステムやソフトウェアを開発するため、一から開発する設計力やプログラミング能力などの開発力が求められます。

スクラッチ開発の場合には、開発担当者に高い技術力が求められるだけでなく、企業として企画力、開発力などがないと、難易度の高い開発案件を最後まで進められません。さらに、開発するシステムやソフトウェアの種類、使う業界などによって、求められる開発力はまったく異なります。

能力が高い技術者が集まっている、企業として企画力や開発力がある、開発を依頼するシステムやソフトウェアの開発経験があるなど、多くの条件を満たしている開発会社を見つけることは容易ではありません。業者選定ミスによるトラブルというリスクを孕んでいるのも、スクラッチ開発の大きな問題点といえるでしょう。

4-4. 要件定義の負担が大きい

スクラッチ開発で構築したシステムの良し悪しは、要件定義の精度で決まるといっても過言ではありません。要件定義の段階で希望があいまいで、システム開発会社側に開発の意図が正しく伝わっていないと、この後の工程が全てぶれてしまい、最終的に「思い描いていたものと乖離したシステムが出来てしまった」となりかねません。

不完全な要件定義や変更要求の増加によるスコープの膨張は、プロジェクトの遅延や品質低下につながります。仮に作り直しとなると、多大な追加費用がかかることもあります。

要件定義はユーザー企業が主体で行うとはいえ、システム構築のためにはユーザーの要件を正確に汲み取り、破綻の無いよう緻密にシステム要件に落とし込んでいく必要があります。そのため、要件定義の段階でしっかりと開発の意図を固め、システム開発会社と密に打ち合わせを行うことが不可欠です。

5. スクラッチ開発の費用相場と開発期間

スクラッチ開発を検討する際に最も気になるのが、具体的な費用相場と開発期間です。ここでは、システム規模別の目安を詳しく解説します。

5-1. 規模別の費用相場

スクラッチ開発の費用は、システムの規模や機能の複雑さによって大きく変動します。以下の表を参考にしてください。

システム規模 費用相場 開発期間 具体例
小規模システム 500万円〜1,000万円 6ヶ月〜1年 社内管理システム、小規模ECサイト、予約管理システム
中規模システム 1,000万円〜5,000万円 1年〜2年 基幹業務システム、中規模Webサービス、顧客管理システム
大規模システム 5,000万円〜数億円 2年〜3年以上 全社統合基幹システム、大規模プラットフォーム、金融系システム

5-2. 費用の内訳

スクラッチ開発の費用は、主に以下の要素で構成されます。

  • 人件費(全体の70〜80%): エンジニア、デザイナー、プロジェクトマネージャーの工数。難易度の高いシステムほど、スキルの高いエンジニアが必要となり、人件費も高額になります。

  • インフラ費用(10〜15%): サーバー環境、開発環境の構築費用。クラウド環境を利用する場合は初期費用を抑えられますが、運用費用が継続的に発生します。

  • ライセンス費用(5〜10%): 開発ツール、データベース、ミドルウェアのライセンス料金。

  • その他経費(5%前後): テスト環境構築、ドキュメント作成、プロジェクト管理ツール利用料など。

5-3. コストを抑えるポイント

限られた予算でスクラッチ開発を進めるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

要件定義を明確にする: 曖昧な要件は手戻りを生み、コスト増大の最大の原因となります。要件定義の段階で十分に時間をかけ、仕様を固めることが結果的にコスト削減につながります。

MVP(最小限の機能)でスタート: 初期リリースは必須機能のみに絞り、段階的に機能を追加していく方法を検討しましょう。一度にすべての機能を実装しようとすると、開発期間が長くなり、コストも膨らみます。

既存フレームワークの活用: 完全フルスクラッチより、実績のあるフレームワークやライブラリを活用することで、開発工数を削減できます。ゼロから作る必要がない部分は、信頼性の高い既存技術を利用しましょう。

段階的な開発(フェーズ分割): プロジェクトを複数のフェーズに分け、優先度の高い機能から順次リリースする方法も効果的です。各フェーズで得られたフィードバックを次のフェーズに活かすことができます。

6. スクラッチ開発に向いている企業・向いていない企業

スクラッチ開発とパッケージ開発のどちらを選ぶべきかは、企業の状況や要件によって異なります。ここでは具体的な判断基準を示します。

6-1. スクラッチ開発に向いている企業(チェックリスト)

以下のチェックリストで、3つ以上に該当する場合は、スクラッチ開発を検討する価値があります。

□ 予算として1,000万円以上を確保できる
スクラッチ開発には相応の予算が必要です。中規模以上のシステムを想定している場合は、この程度の予算は最低限必要です。

□ 開発期間として1年以上待つことができる
質の高いスクラッチ開発には時間がかかります。急いでリリースする必要がない場合に適しています。

□ 既存パッケージでは実現できない独自機能が必須
市場にない独自の機能や、他社との差別化要素として重要な機能がある場合は、スクラッチ開発が適しています。

□ 業務フローが特殊で、システムに業務を合わせることができない
長年培ってきた独自の業務フローがあり、それを変更できない場合は、業務に合わせたシステム開発が必要です。

□ コア業務に直結するシステムである
企業の競争力に直結するコア業務のシステムは、スクラッチ開発で独自性を追求する価値があります。

□ 将来的な機能拡張や大幅なカスタマイズが見込まれる
ビジネスの成長に合わせてシステムも進化させていく必要がある場合、拡張性の高いスクラッチ開発が有利です。

□ システムの著作権を自社で保持したい
システムを自社の資産として長期的に管理・活用したい場合は、著作権を自社で保持できるスクラッチ開発が適しています。

□ 競合他社との差別化要素としてシステムを位置づけている
システム自体が競争優位性の源泉となる場合は、独自性の高いスクラッチ開発が推奨されます。

6-2. パッケージ開発を検討すべきケース

以下に該当する場合は、スクラッチ開発よりパッケージ開発が適しています。

  • 予算が500万円以下: 限られた予算では、パッケージ開発の方がコストパフォーマンスが高いです。

  • 3〜6ヶ月以内にリリースしたい: 短期間でのリリースが必要な場合は、パッケージ開発が現実的です。

  • 一般的な業務フロー(会計、勤怠管理など): 標準的な業務プロセスの場合、パッケージで十分に対応可能です。

  • ノンコア業務のシステム化: 企業の競争力に直結しない業務は、パッケージで効率化を図る方が合理的です。

  • 業務の標準化・効率化を同時に進めたい: パッケージ導入を機に、業務フローを見直して標準化を図ることもできます。

6-3. 具体的な判断基準(比較表)

スクラッチ開発とパッケージ開発のどちらが向いているか、以下の表で判断してください。

判断項目 スクラッチ開発が向いている パッケージ開発が向いている
予算と納期 予算と納期に比較的余裕がある 予算と納期にあまり余裕がない
機能追加の頻度 定期的に発生しそう あまり発生しない
対象業務 コア業務に使用する
独自の業務が多い
業務フローの変更が困難
コア業務以外に使用する
一般的な業務が多い
業務フローの変更が比較的容易
カスタマイズ 独自のカスタマイズが必須 標準機能で充足する
競争優位性 システムが差別化要素 システムは業務効率化ツール

7. スクラッチ開発の進め方(5つのステップ)

スクラッチ開発を成功させるためには、適切なプロセスで進めることが重要です。ここでは一般的なスクラッチ開発の流れを5つのステップで解説します。

7-1. 要件定義

要件定義は、スクラッチ開発において最も重要なステップです。顧客企業からの要望や現状の課題などを洗い出し、「どのようなシステムを作りたいか」「システムで何を実現したいか」といったシステム要件を明確にします。

利害関係者との十分なコミュニケーションを図り、利用者のニーズや要求を明確に把握することが不可欠です。要件定義が不十分だと、開発プロセス全体がブレてしまい、最終的に期待と異なるシステムが出来上がるリスクがあります。

この段階では、機能要件だけでなく、非機能要件(性能、セキュリティ、拡張性など)についても詳細に定義する必要があります。要件定義に十分な時間をかけることで、後工程での手戻りを最小限に抑えることができます。

7-2. 基本設計・詳細設計

要件定義書にある機能や性能、制約条件などをもとに、システムの基本設計を行います。システム全体のアーキテクチャ、画面設計、データベース設計などを実施します。

基本設計が完了したら、システムの内部設計や物理データ構造などについて、詳細設計を行います。詳細設計では、プログラミングに必要な具体的な仕様を定義し、開発者が実装できるレベルまで落とし込みます。

設計フェーズでは、将来的な拡張性や保守性も考慮した設計を行うことが重要です。適切な設計を行うことで、開発フェーズ以降の作業がスムーズに進みます。

7-3. 開発(プログラミング)

設計書をもとにプログラミングを行い、ソースコードを作成します。モジュールごとに段階的に開発を進めることで、進捗管理がしやすくなります。

開発フェーズでは、コーディング規約を定めて品質を統一することや、バージョン管理システムを活用してソースコードを適切に管理することが重要です。また、定期的にコードレビューを実施することで、バグの早期発見や品質向上につながります。

7-4. テスト(単体・結合・システム・運用)

開発されたシステムが要件を満たしているか、様々な観点からテストを実施します。

単体テスト: 各モジュールが正しく動作するかを確認
結合テスト: 複数のモジュールを組み合わせて動作確認
システムテスト: システム全体として要件を満たしているか確認
運用テスト: 実際の運用環境での動作確認

テストフェーズでは、テスト計画やテストケースの作成、適切なテスト環境の構築などが重要です。テストの自動化も適切な品質保証を行う上で役立ちます。品質保証のためには、バグ追跡やログの記録、継続的な監視・改善なども必要です。

7-5. リリース・保守運用

テストが完了したら、本番環境にシステムをリリースします。リリース後は、システムの安定稼働と継続的な改善が求められます。

障害対応やトラブルシューティングは欠かせない要素です。ユーザーからのフィードバックや監視ツールによるシステムの状態を常に把握し、迅速かつ適切な対応が必要です。セキュリティの観点から、定期的な脆弱性診断やセキュリティパッチの適用も重要です。

また、機能の追加や改善など、システムの進化を促す作業も大切です。ユーザーの利便性や業務効率を向上させるための改善は、競争力を維持するために不可欠です。

8. 失敗しない開発会社の選び方

スクラッチ開発の成否は、開発会社の選定で大きく左右されます。ここでは、開発会社を選ぶ際の重要なポイントを解説します。

8-1. 評価すべき5つのポイント

1. 類似案件の開発実績
自社の業界・業種での開発経験があるかを確認しましょう。過去の成功事例や失敗事例から、その会社の実力や信頼性を判断することができます。具体的な事例を見せてもらい、開発期間、予算、課題とその解決方法などを確認することが重要です。

2. 技術力とスキルセット
スクラッチ開発には多岐にわたる技術や言語が必要となります。開発会社が最新の技術スタックや開発言語を適切に扱えるかどうかを確認することが必要です。また、セキュリティやパフォーマンス最適化などの専門知識も重要な評価ポイントです。

3. プロジェクトマネジメント能力
開発スケジュールやタスク管理、コミュニケーション能力などが、プロジェクトの成功に大きく影響します。定期的な進捗報告や課題共有の体制が整っているか、リスク管理の手法を持っているかなどを確認しましょう。

4. 提案能力とコミュニケーション能力
顧客企業のニーズを的確に把握し、最適なソリューションを提案する能力が重要です。要件定義の段階から積極的に関与し、ビジネス目標に合った適切なアーキテクチャやテクノロジーの選定を行えるかどうかを見極めましょう。

5. 価格設定とサポート体制
価格設定が適切であり、透明性があるかを確認しましょう。また、リリース後の保守・運用サポート体制が整っているかも重要です。長期的なパートナーとして、企業文化やコミュニケーションのスタイルが自社と合うかどうかも判断基準となります。

8-2. 見積もり依頼時の注意点

複数の開発会社から見積もりを取る際は、単に金額だけで比較するのではなく、以下の点に注意しましょう。

  • 見積もりの詳細度: 工程ごとの内訳が明確に示されているか
  • 想定される工数: 各作業にどれだけの工数を見込んでいるか
  • 含まれる範囲: 保守運用費用やインフラ費用が含まれているか
  • 追加費用の可能性: 仕様変更時の追加費用の考え方

安すぎる見積もりには注意が必要です。必要な工数が確保されていない可能性があり、結果的に品質が低下したり、追加費用が発生したりするリスクがあります。

8-3. 契約時の確認事項(著作権の帰属など)

契約を結ぶ前に、以下の項目を必ず確認しましょう。

著作権の帰属: 成果物の著作権を自社に移転する条項が含まれているか。「受託者は委託者に対し、成果物の著作権を譲渡する」といった文言を契約書に明記することが重要です。

瑕疵担保責任: システムに不具合があった場合の責任範囲と保証期間

機密保持契約: 開発過程で知り得た情報の取り扱いについて

納品条件: 何をもって納品完了とするか、検収基準の明確化

支払い条件: 支払いタイミングと条件、分割払いの可否

契約解除条項: プロジェクトが途中で中止になった場合の取り決め

9. スクラッチ開発のよくある質問(FAQ)

Q1. スクラッチ開発とフルスクラッチ開発の違いは何ですか?

A. スクラッチ開発は既存フレームワークやライブラリを部分的に活用することもありますが、フルスクラッチ開発はそれらを一切使わず、純粋にゼロから開発する手法です。

実務上、完全なフルスクラッチはコストが膨大になるため、多くの場合は実績あるフレームワークを活用したスクラッチ開発が選択されます。たとえば、Ruby on RailsやLaravelなどのWebフレームワークを使用しても、独自のビジネスロジックやUIを一から構築する場合は、スクラッチ開発と呼ばれます。

Q2. スクラッチ開発の著作権は誰のものになりますか?

A. 法律上、開発したシステムの著作権は制作者(開発会社)に帰属します。ただし、契約書に「著作権譲渡条項」を盛り込むことで、発注者側に著作権を移転させることが可能です。

具体的には、「受託者は委託者に対し、本件成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)を譲渡する」といった条項を契約書に記載します。自社でシステムの著作権を保持したい場合は、契約前に必ず確認しましょう。著作権を自社で保持することで、将来的な改修や他社への譲渡なども自由に行えるようになります。

Q3. 開発途中で仕様変更は可能ですか?

A. 可能ですが、追加費用と開発期間の延長が発生します。特に開発後半での大幅な仕様変更は、システム全体の設計に影響を与え、品質低下リスクも高まります。

そのため、要件定義段階で十分に要件を洗い出し、仕様を固めることが重要です。ただし、どうしても仕様変更が避けられない場合は、アジャイル開発手法を採用することで、段階的な仕様変更に柔軟に対応できます。アジャイル開発では、短いスパンの開発を繰り返すため、機能変更や機能追加に柔軟に対応できるというメリットがあります。

Q4. パッケージ開発との費用差はどれくらいですか?

A. 一般的に、スクラッチ開発はパッケージ開発の2〜5倍の費用がかかります。

たとえば、パッケージ開発で200万円の会計システムをスクラッチで開発すると、400万円〜1,000万円程度になるケースが多いです。中規模のECサイトの場合、パッケージ開発なら300万円〜500万円程度ですが、スクラッチ開発では1,000万円〜3,000万円程度が相場です。

ただし、長期的な視点で見ると、スクラッチ開発は拡張性が高く、将来的なカスタマイズ費用を抑えられる可能性があります。パッケージ開発で無理にカスタマイズを重ねると、結果的にスクラッチ開発と同程度のコストになることもあります。

Q5. 開発会社選びで最も重視すべきポイントは何ですか?

A. 以下の3点を重視しましょう。

1. 類似案件の開発実績: 自社の業界・業種での開発経験があるか。具体的な事例を見せてもらい、開発期間、予算、課題とその解決方法などを確認することが重要です。

2. 要件定義力: 曖昧な要望をシステム要件に落とし込むスキル。顧客企業のニーズを的確に把握し、最適なソリューションを提案する能力が求められます。

3. コミュニケーション能力: 定期的な進捗報告と課題共有の姿勢。開発プロセス全体を通じて、円滑なコミュニケーションが取れるかどうかが、プロジェクト成功の鍵となります。

これらの要素を総合的に評価し、長期的なパートナーとして信頼できる開発会社を選ぶことが重要です。

Q6. スクラッチ開発は時代遅れではないですか?

A. いいえ、スクラッチ開発は時代遅れではありません。

確かに、クラウドサービスやSaaSの普及により、パッケージ開発やノーコード開発が増えていますが、独自性の高いシステムや複雑な業務要件を持つ企業では、依然としてスクラッチ開発が最適な選択肢です。

特に、以下のような場合はスクラッチ開発の価値が高いといえます。

  • 競合他社との差別化が重要なコア業務システム
  • 既存パッケージでは実現できない独自のビジネスモデル
  • 将来的に大規模な拡張を見込んでいるシステム

重要なのは「本当にスクラッチが必要か」を見極めることです。標準的な業務プロセスで、パッケージで十分に対応できる場合は、無理にスクラッチ開発を選ぶ必要はありません。自社の状況や要件を冷静に分析し、最適な開発手法を選択することが成功の鍵です。

Q7. 小規模な会社でもスクラッチ開発は可能ですか?

A. 予算と開発期間を確保できれば可能です。

小規模システムであれば、500万円〜1,000万円程度の予算でスクラッチ開発を実現できます。ただし、予算が限られている場合は、MVP(Minimum Viable Product: 最小限の機能を持つ製品)でスタートし、段階的に機能を追加していく方法も検討しましょう。

初期リリースは必須機能のみに絞り、実際の運用で得られたフィードバックを元に、優先度の高い機能から順次追加していくアプローチが、リスクとコストを抑える上で効果的です。

Q8. 開発期間を短縮する方法はありますか?

A. いくつかの方法がありますが、品質を犠牲にしないことが前提です。

1. スコープを絞る: 初期リリースは必須機能のみに限定し、段階的に機能を追加していく

2. 既存フレームワークの活用: 完全フルスクラッチではなく、実績のあるフレームワークを活用する

3. アジャイル開発手法の採用: 短いスパンでの開発とリリースを繰り返すことで、早期にシステムを利用開始できる

4. 開発チームの増員: 予算に余裕がある場合は、開発チームを増員することで並行作業が可能になる

ただし、開発期間を無理に短縮すると、品質低下やバグの増加につながるリスクがあります。適切なバランスを取ることが重要です。

10. まとめ

スクラッチ開発は、既存パッケージでは実現できない独自性の高いシステムを構築できる開発手法ですが、費用は500万円〜2,000万円以上、開発期間は6ヶ月〜数年を要するため、慎重な判断が必要です。

スクラッチ開発を選ぶべきケース

  • 予算1,000万円以上、開発期間1年以上を確保できる
  • 既存パッケージでは実現できない独自機能が必須
  • コア業務で競争優位性を確保したい
  • 将来的な大幅な機能拡張が見込まれる
  • システムの著作権を自社で保持したい

パッケージ開発を選ぶべきケース

  • 予算500万円以下、3〜6ヶ月以内にリリースしたい
  • 一般的な業務フロー(会計、勤怠管理など)
  • ノンコア業務のシステム化
  • 業務の標準化・効率化を同時に進めたい

成功のカギは「要件定義」と「ベンダー選定」

スクラッチ開発の成否は、初期段階の要件定義の精度と、技術力・コミュニケーション力を兼ね備えた開発会社の選定にかかっています。要件定義が不十分だと、開発プロセス全体がブレてしまい、最終的に期待と異なるシステムが出来上がるリスクがあります。

また、開発会社選びでは、類似案件の開発実績、技術力、プロジェクトマネジメント能力、提案能力とコミュニケーション能力を総合的に評価することが重要です。複数社から見積もりを取り、過去の開発実績や提案内容を慎重に比較検討しましょう。

自社のニーズに本当にスクラッチ開発が必要かを見極め、最適な開発手法を選択することが、システム開発プロジェクトを成功に導く第一歩です。本記事で紹介したチェックリストや比較表を活用し、自社に最適な判断を行ってください。

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