ワークフローで業務を見える化。経営層を説得する導入効果の示し方
申請業務の進捗が見えず、現場と経営層の板挟みになっていませんか?日々の業務で、紙やExcelでの管理に限界を感じ、「もっと効率的な方法はないものか」と頭を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
このコラムでは、そのような課題を抱えるあなたのために、業務を「見える化」する切り札となる「ワークフロー」の基本から、具体的な業務改善効果、そして何よりも重要な「経営層を説得し、導入を成功させるための具体的なステップ」までを徹底的に解説します。この記事を読み終える頃には、抱える課題を解決し、社内を動かすための明確な道筋が見えているはずです。ぜひ、今日から実践できるヒントを見つけて、一歩踏み出してください。
なぜ今、業務の「見える化」が求められるのか?
現代のビジネス環境は、目まぐるしい変化の連続です。特に近年では、テレワークの急速な普及や、市場ニーズの多様化、競合他社のグローバル化など、企業を取り巻く外部環境が大きく変動しています。このような状況下で、企業が迅速な意思決定を行い、競争力を維持するためには、場所に縛られずに業務を進められる柔軟性と、業務プロセス全体の透明性が不可欠です。業務の「見える化」は、単なる効率化の手段ではなく、変化の激しい時代を生き抜くための経営戦略の基盤と言えるでしょう。
また、コンプライアンス強化や内部統制の重要性が叫ばれる昨今、業務の透明性は以前にも増して注目されています。企業の不祥事が社会的な信用失墜に直結する現代において、すべての業務活動が適切に記録され、追跡可能であることは、組織の健全性を保つ上で極めて重要です。業務プロセスが不明確なままでは、不正発生のリスクが高まるだけでなく、監査対応に膨大な時間と労力がかかり、結果として経営資源の無駄遣いにもつながってしまいます。
こうした背景から、企業は業務プロセスを明確にし、誰もが理解できる形で可視化することが求められています。次のセクションでは、このような現代の要請に応えられない「アナログな業務管理」が抱える具体的な課題について深掘りしていきます。
紙やExcelによるアナログな業務管理の限界
皆さんの会社でも、「紙の申請書に上司のハンコをもらうためだけに出社する」「Excelで作成した申請ファイルがメールで飛び交い、どれが最新版か分からなくなる」「過去の申請書を探すために、共有フォルダを延々とクリックしたり、キャビネットの奥を漁ったりする」といった経験はありませんか。これらは、紙やExcelといったアナログな方法で業務管理を行っている多くの企業で「あるある」と言える光景です。
このような非効率な業務は、単に時間が無駄になるだけでなく、従業員のストレスやモチベーション低下にも直結します。たとえば、急ぎの申請があるにもかかわらず、承認者が不在で業務が滞ってしまう。メールで送られたExcelファイルに修正指示が入り、その度に修正版が複数発生し、最新版が分からなくなる。挙げ句の果てには、誤った内容のまま業務が進んでしまい、大きな手戻りが発生するといった事態も起こり得ます。
紙やExcelは手軽に導入できる反面、デジタル化が進んだ現代においては、業務のボトルネックとなりがちです。特に、進捗状況の把握や過去履歴の検索、情報共有といった点で限界を露呈し、企業全体の生産性向上を阻害する大きな要因となっているのが現状です。
「進捗がわからない」「担当者不在で止まる」属人化のリスク
アナログな業務管理が引き起こす最大のリスクの一つに「属人化」があります。これは、特定の業務プロセスが特定の担当者に依存しすぎてしまい、その担当者がいないと業務が滞ってしまう状態を指します。「あの申請、今どこで止まっていますか?」と問い合わせても、担当者自身も「承認待ちのはずですが、どこまで進んでいるか私も分からなくて」と答えられない状況は、まさに属人化の典型的な例です。
担当者の急な休暇や出張、あるいは退職によって、その業務が完全にストップしてしまうリスクは計り知れません。重要な申請や承認が滞れば、ビジネスチャンスを逃したり、取引先との信頼関係に影響が出たりする可能性もあります。さらに、業務ノウハウが個人の頭の中に留まり、組織全体に蓄積されないため、新任者への引き継ぎに膨大な時間とコストがかかるだけでなく、業務品質のばらつきやミスの発生にもつながります。
業務の属人化は、単なる業務の遅延にとどまらず、企業の経営効率やコンプライアンス体制を揺るがす大きな問題です。このリスクを解消し、誰が担当してもスムーズに業務が進められるようにするためには、業務プロセスの可視化と標準化が不可欠なのです。
「見える化」がもたらす業務改善の第一歩
これまで見てきたようなアナログ業務の課題や属人化のリスクを解決するための第一歩となるのが、業務の「見える化」です。業務プロセスが目に見える形になることで、初めて組織は自分たちの業務がどこで、どのように行われているのかを客観的に把握できるようになります。
「見える化」が実現すれば、「この工程で承認に時間がかかりすぎている」「この部署と部署の間で書類の受け渡しにボトルネックがある」といった具体的な課題を、勘や経験ではなくデータに基づいて特定できます。これにより、どこに改善のメスを入れるべきかが明確になり、場当たり的な対応ではなく、根拠に基づいた的確な改善策を立案することが可能になります。
業務の「見える化」は、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を効果的に回すための土台を築きます。課題を明確にし、改善策を実行し、その効果を測定することで、組織は継続的に業務効率を向上させ、変化に対応できる強い体制を構築できるのです。
ワークフローとは?基本とシステム化のメリットを理解する
ここまで、アナログ業務が抱える課題や、業務の「見える化」が業務改善の第一歩となることを解説してきました。これらの課題を解決し、業務の効率化と透明化を同時に実現する具体的な手段が「ワークフローのシステム化」です。
このセクションでは、まず「ワークフロー」という言葉の基本的な概念から、それをデジタル化する「ワークフローシステム」とは何か、そしてなぜその導入が業務改善に有効なのか、その概要を分かりやすくご説明します。
「ワークフロー」と「ワークフローシステム」の違い
「ワークフロー」と聞くと、単にITシステムをイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、この二つには明確な違いがあります。
まず「ワークフロー」とは、ビジネスプロセスにおける業務の一連の処理手続きや流れそのものを指します。例えば、従業員が経費の申請を行い、上長がその内容を確認・承認し、最終的に経理部が精算処理を行うという一連の業務プロセスが、まさに「経費精算のワークフロー」です。これは、紙で行っても、口頭で行っても、Excelで行っても「ワークフロー」と呼ぶことができます。
一方、「ワークフローシステム」とは、この業務の一連の流れを電子化・自動化するためのツールや仕組みのことを指します。稟議書の申請から承認、決裁までの一連の流れが「ワークフロー」であれば、それをPCやスマートフォンといったデジタルデバイス上で完結させ、プロセスの進捗管理や書類の保管までを可能にするのが「ワークフローシステム」なのです。
ワークフローシステムの基本的な仕組みと機能
ワークフローシステムは、紙ベースで行っていた申請・承認業務をデジタル環境に移行し、効率化するためのツールです。その基本的な仕組みは、主に次の3つのステップで構成されます。
一つ目は「申請フォームへの入力(起票)」です。従業員はシステム上で用意されたフォームに必要事項を入力して申請を行います。このフォームは、ノーコード(プログラム不要)で簡単に作成できるものが多く、企業の書式に合わせて柔軟にカスタマイズできます。
二つ目は「設定された承認ルートに沿った回覧・承認」です。申請が提出されると、あらかじめ設定された承認ルートに基づき、自動的に次の承認者へ通知が届きます。承認者はPCやスマートフォンから内容を確認し、承認・却下といった判断を下します。この承認ルートは、役職や金額、申請内容に応じて複雑な条件分岐を設定できる「承認ルート設定機能」によって柔軟に定義可能です。また、申請の進捗状況をリアルタイムで知らせる「通知機能」も備わっており、誰のところで止まっているかが一目でわかります。
三つ目は「決裁後の書類保管・検索」です。最終的な決裁が下りた申請書類は、システム内で自動的に保管されます。過去の申請書類を容易に探し出せる「検索機能」も充実しており、必要な情報にすぐにアクセスできます。
これらの機能により、申請から承認、決裁、そして保管に至るまでの一連のプロセスがデジタルで完結し、大幅な業務効率化と透明性の向上が実現されます。
なぜワークフローシステムが業務改善の切り札になるのか
ワークフローシステムが、なぜ業務改善の「切り札」となりうるのでしょうか。それは、これまでに触れてきたアナログ業務が抱える多くの課題を、システムの機能が直接的に解決するからです。
例えば、「あの申請、今どこで止まっていますか?」といった「進捗がわからない」という課題は、システム上で申請状況がリアルタイムに可視化されることで解決します。誰が、いつ、どの段階で承認待ちになっているかが一目でわかるため、無駄な確認作業が不要になり、業務の停滞を防ぐことができます。
また、「担当者不在で業務が止まる」という属人化のリスクに対しては、代理承認機能や自動催促機能が有効です。担当者が不在でも代理承認者が処理を進めたり、期日を過ぎた申請に対してシステムが自動で催促したりすることで、業務の遅延を最小限に抑えることができます。
さらに、「紙やExcelの管理が煩雑」という問題は、ペーパーレス化とデータの一元管理によって解消されます。申請書類は全てデジタルデータとしてシステムに集約され、過去の書類も検索機能を使って瞬時に探し出せます。これにより、紙のファイリングやExcelファイルのバージョン管理といった手間がなくなり、ヒューマンエラーのリスクも大幅に低減します。
このように、ワークフローシステムは、単なる申請・承認の効率化に留まらず、業務プロセス全体の透明化、属人化の解消、そしてデータの一元管理を通じて、企業が抱える様々な課題を根本から解決する業務改善の切り札となりえるのです。
ワークフロー導入で得られる5つの効果
ワークフローシステムの導入を検討する際、経営層へその価値を理解してもらうためには、単なる機能の説明ではなく、会社全体の利益にどう貢献するのかを明確に伝える必要があります。このセクションでは、ワークフロー導入によって得られる具体的なメリットを、経営層の視点から「定量的な指標」と「定性的な効果」に分けて詳しく解説します。これからご紹介する内容は、皆さまが上長や役員へ提案する際の資料として、そのまま活用できる実践的な情報です。これらの効果をしっかりと把握し、説得力のある提案につなげていきましょう。
効果1:業務プロセスの可視化と標準化
ワークフローシステムを導入する最も基本的な効果の一つは、業務プロセスの可視化と標準化です。これまでは個人の経験や知識に依存し、属人化していた申請・承認業務の流れが、システム上で明確な承認ルートとして設定されることで、誰の目にも一目でわかるようになります。これにより、「この申請は今誰のところで止まっているのか」「次のステップは何か」といった疑問が解消され、業務の透明性が大幅に向上します。
さらに、全社で統一されたフォーマットとルールに基づき業務が遂行されるため、部署ごとの手続きのバラつきがなくなり、業務品質の安定化に繋がります。これは、内部統制の強化にも大きく寄与し、企業のガバナンス体制を盤石にするための重要な基盤となります。プロセスが可視化され標準化されることで、業務改善の議論も具体的なデータに基づいて行えるようになり、継続的な効率化へと繋がっていくのです。
効果2:意思決定のスピードアップ
ビジネス環境が急速に変化する現代において、迅速な意思決定は企業の競争力を左右する重要な要素です。ワークフローシステムを導入することで、これまで申請書を物理的に持ち運んだり、承認者の不在を待ったりしていた非効率な時間が大幅に削減されます。システムが次の承認者へ自動で通知を送るため、承認漏れや遅延を防ぎ、承認者はスマートフォンやタブレットからでもいつでもどこでも承認作業を行うことが可能です。
このスピードアップは、個々の申請・承認だけでなく、組織全体の意思決定プロセスに良い影響を与えます。例えば、重要な投資案件や顧客への提案承認が数日短縮されるだけで、ビジネスチャンスを逃さずに済んだり、市場の変化に素早く対応できたりする可能性があります。結果として、企業の機動性が高まり、売上向上やコスト削減に直接的に貢献することが期待されます。
【定量的指標】申請〜承認までのリードタイム短縮率
経営層への説明において、感覚的な効果だけでなく具体的な数値で示すことは非常に重要です。ワークフロー導入による意思決定のスピードアップを示す定量的指標として、「申請から最終承認までのリードタイム短縮率」を挙げることができます。
例えば、導入前の現状で「申請から最終承認まで平均5営業日」かかっていた業務があるとします。ワークフローシステム導入後、このリードタイムが「平均1.5営業日」に短縮されたと仮定すると、その短縮率は以下の計算で算出できます。
リードタイム短縮率 = (1 – 1.5日 / 5日) × 100 = 70%短縮
このように、「承認にかかる時間が70%削減できた」と具体的な数値で示すことで、経営層はシステム導入がビジネススピードに与える影響を明確に理解し、その価値を高く評価してくれるでしょう。まずは特定の業務を選び、現状のリードタイムを計測し、導入後の目標値を設定してみることをお勧めします。
効果3:ペーパーレス化によるコスト削減
ワークフローシステムの導入は、直接的なコスト削減にも大きく貢献します。特に、これまで紙ベースで運用されていた申請・承認業務を電子化することで、多岐にわたる費用を削減することが可能です。
削減できるコスト項目としては、以下のようなものが挙げられます。
- コピー用紙代
- プリンターのインク・トナー代
- 印刷機のリース・保守費用
- 書類の郵送費や運搬費
- 保管用のファイルやキャビネット購入費
- 書類を保管するための倉庫スペース賃料
- 書類の廃棄にかかる費用
これらの費用は、一つ一つは少額に思えるかもしれませんが、全社規模、年間単位で集計すると決して無視できない金額になります。ペーパーレス化は単なる環境配慮だけでなく、企業の収益性を改善する直接的な手段となるのです。
【定量的指標】印刷・保管・郵送コストの削減額
ペーパーレス化によるコスト削減効果も、具体的な計算例で示すことで経営層への説得力が増します。例えば、以下のように試算してみましょう。
月間のコピー用紙代:50,000円
印刷関連費(インク・トナー、保守費用など):30,000円
郵送費:20,000円
書類保管コスト(担当者の書類整理工数、倉庫代換算など):50,000円
これらを合計すると、月間150,000円のコスト削減が見込めます。年間では1,800,000円のコスト削減効果となります。
このように、具体的な数字を積み上げて「年間で〇〇円のコスト削減が見込める」と提示することで、ワークフローシステムへの投資が短期的に回収可能であることを示唆でき、経営層の理解を得やすくなります。自社で発生している紙関連のコストを細かく洗い出し、この計算モデルに当てはめてみてください。
効果4:内部統制の強化とコンプライアンス遵守
ワークフローシステムの導入は、経営層が非常に重視するリスク管理、特に内部統制の強化とコンプライアンス遵守に大きく貢献します。システム上では、「いつ、誰が、何を申請し、誰が承認したか」といった業務の証跡(ログ)が自動的かつ正確に記録されます。
この記録は、不正行為の抑止力となるだけでなく、万が一問題が発生した際の原因究明にも役立ちます。監査時には、必要な情報を迅速に提示できるため、監査対応の効率化にも繋がります。また、電子帳簿保存法などの法令遵守の観点からも、デジタルで一貫した記録が残るワークフローシステムは非常に有効です。法改正への対応も柔軟に行えるため、常に最新のコンプライアンス要件を満たした運用が可能になります。これにより、企業の信頼性向上と事業継続性の確保に大きく貢献します。
【定性的効果】監査対応工数の削減と証跡管理の容易化
内部統制の強化やコンプライアンス遵守は、直接的な金額で測りにくい定性的な効果が多いですが、そのインパクトは非常に大きいものです。特に監査対応においては、ワークフローシステムがもたらす効果は計り知れません。
従来の紙ベースの運用では、監査のたびに担当者が数日から数週間をかけて、過去の膨大な紙の書類をキャビネットや倉庫から探し出す、といった作業が常態化していました。この作業は、担当者にとって大きな心理的負担と膨大な工数を発生させます。
しかし、ワークフローシステムを導入すれば、必要な証跡はすべてシステム内に電子データとして保存されています。監査の要求に応じて、システム上でキーワード検索をかけるだけで、瞬時に目的の申請書や承認履歴を見つけ出し、提示することが可能です。これにより、監査対応にかかる従業員の工数は大幅に削減され、精神的なストレスも軽減されます。結果として、監査対応の効率化と品質向上が同時に実現できるのです。
効果5:多様な働き方への対応(テレワーク推進)
現代の企業経営において、柔軟な働き方を実現することは、優秀な人材の確保や従業員満足度の向上に不可欠です。ワークフローシステムは、多様な働き方、特にテレワークやハイブリッドワークを推進する上で極めて重要な役割を果たします。
「ハンコを押すためだけに出社する」という非効率な状況は、ワークフローシステムの導入によって過去のものとなります。インターネット環境さえあれば、自宅や外出先からでも、PCやスマートフォンを使って申請や承認業務を滞りなく行うことが可能です。これにより、従業員は場所や時間にとらわれずに業務を進められるようになり、生産性の向上に繋がります。
また、企業側にとっては、災害時などの緊急事態においても事業を継続できるレジリエンス(回復力)を高めることができます。ワークライフバランスの改善は、従業員のエンゲージメントを高め、結果として企業の成長を加速させる大きな要因となるでしょう。
経営層を説得する!ワークフロー導入を成功に導く3ステップ
ワークフローシステムの導入効果を十分に理解した今、いよいよ「どうすれば経営層に導入を承認してもらえるか」という、最も重要な実践フェーズへと進んでいきます。上司や役員を説得するのは容易ではないと感じるかもしれません。しかし、ご安心ください。具体的な3つのステップを踏むことで、導入成功の確率は格段に高まります。
この記事でご紹介するステップに沿って進めれば、あなたは「会社の課題を解決し、経営を良い方向に動かせる人」として、周囲の信頼と評価を得られるでしょう。ぜひ、この道筋を参考に、社内を動かすための一歩を踏み出してください。
ステップ1:現状把握と課題の定量化
経営層を説得する上で、最も重要なことは「客観的な事実」に基づいた現状分析です。「なんとなく非効率だ」「現場が困っている」といった感覚的な訴えだけでは、多忙な経営層の心には響きません。誰が見ても納得できる具体的なデータを示し、現状の課題を「見える化」することが、提案の第一歩であり、後のROI(投資対効果)試算や導入効果の根幹となります。
このステップを丁寧に進めることで、あなたの提案は揺るぎないものとなり、経営層も具体的な改善イメージを持つことができるようになります。
対象業務の洗い出しと業務フロー図の作成
まずは、ワークフローシステム化の対象とする業務を具体的に絞り込みましょう。いきなり全社の業務を対象とするのではなく、特に効果が出やすい業務から始めるのが成功の鍵です。
選定のポイントは、「全社的に影響範囲が広く、業務量が多い業務」(例:稟議申請、経費精算、押印申請など)や、「現状で遅延やミスが多く、現場の不満が特に大きい業務」(例:見積承認、契約書確認、人事関連申請など)です。これらの業務は、改善効果が大きく、経営層へのインパクトも与えやすいでしょう。
次に、選んだ業務の現状のプロセスを、関係者へのヒアリングを通じて詳細に把握し、シンプルな業務フロー図に書き起こします。これにより、現状のどこにボトルネックがあるのか、どの工程に時間がかかっているのかが視覚的に明確になります。
ボトルネックとなっている課題を数値で示す
業務フロー図で可視化されたボトルネックを、さらに「数値」に落とし込んで具体的な課題として示します。これが、経営層への説得材料の核となる部分です。
例えば、以下のような具体的なデータを収集し、提示してみましょう。
- 「承認待ちで平均〇日間停滞している」(リードタイムの長期化)
- 「書類の不備による差し戻しが月に〇件発生し、1件あたり〇分の手戻り工数がかかっている」(手戻りによる非効率)
- 「過去の申請書を探すのに、平均〇分かかっている」(検索・データ活用の非効率)
- 「紙の申請書作成・印刷・回覧・保管にかかる費用が年間〇円発生している」(コスト)
このように、時間、件数、工数、コストといった定量的なデータで課題を表現することで、経営層は現状の具体的な問題点と、そこから生じる損失を明確に認識できるようになります。
ステップ2:導入効果の試算とROI(投資対効果)の提示
ステップ1で現状の課題を定量的に把握できたら、次はワークフローシステム導入によってその課題がどれだけ改善されるのか、具体的な効果を試算します。経営層が最も知りたいのは、「この投資に対して、どれだけのリターンがあるのか」というROI(投資対効果)です。
単なる機能説明ではなく、数字に基づいた具体的な改善効果を提示することで、経営層は導入を検討する価値があると判断しやすくなります。このステップでは、削減できる工数やコストを具体的な金額で示し、投資回収期間を算出することが重要です。
削減できる工数とコストを具体的に計算する
ワークフローシステムの導入によって削減できる工数やコストを具体的に計算し、その結果を明確に示しましょう。
例えば、「月間200件の申請業務で、ワークフローシステムを導入することで1件あたり30分の工数削減が見込める場合、月間合計で100時間(200件 × 30分)の工数削減となります。平均時給を3,000円と仮定すると、月間30万円(100時間 × 3,000円)の人件費相当の効率化が図れる計算です。」といった具体的な計算式と結果を提示します。
これに、前述したペーパーレス化によるコピー用紙代、インク代、印刷機の保守費用、郵送費、書類保管コストなどの直接的なコスト削減額を加えます。そして、これらの削減効果の合計額と、ワークフローシステムの月額費用や初期費用を比較することで、投資回収期間(導入費用を何ヶ月で回収できるか)を算出できます。このROIを明確に示すことが、経営層への説得力を高めます。
スモールスタートでの効果測定を提案する
いきなり全社的なシステム導入を提案すると、「本当に効果が出るのか」「失敗したらどうするのか」といった失敗リスクへの懸念から、経営層が承認に二の足を踏むことがあります。
そこでおすすめしたいのが、「スモールスタート(PoC: Proof of Concept)」での効果測定の提案です。例えば、「まずは〇〇部の見積申請業務に限定して、3ヶ月間ワークフローシステムを試行導入し、そこで得られた効果を測定して評価する」といった形です。
これにより、初期投資を抑えつつ、実際の業務で効果が出ることを実証できます。多くのワークフローシステムベンダーが提供している無料トライアル期間を活用し、限定的な範囲で導入効果を測ることで、失敗のリスクを低減し、その後の全社展開への道筋をつけやすくなります。
ステップ3:説得力を高める提案資料の作り方
これまでの丁寧な分析と具体的な試算を、いかに「伝わる形」で提案できるかが、最終的な承認を得るための鍵となります。ただ単に情報を羅列するだけでは、多忙な経営層の理解を得るのは難しいでしょう。
ここでは、提案の要点を簡潔にまとめ、相手が一目で「なるほど」と納得できるような、説得力のある提案資料を作成するポイントを解説します。構成を工夫し、視覚的な要素も取り入れることで、あなたの熱意と論理がより強力に伝わります。
課題・解決策・効果を1枚で示すエグゼクティブサマリー
提案資料の冒頭には、必ず「エグゼクティブサマリー」と呼ばれる、要点を1枚にまとめたページを用意しましょう。これは、結論から話すことを好む経営層に対して非常に有効です。
この1枚には、以下の4つの要素を簡潔に記載します。
- 現状の課題:定量データ(ステップ1で収集したもの)を交え、現時点での問題点を明確に示します。
- 解決策:〇〇部へのワークフローシステムのスモールスタート導入など、具体的な提案内容を述べます。
- 期待される効果:ROI、リードタイム短縮率、削減コストなど、数字に基づいた導入効果を分かりやすく提示します。
- 提案:3ヶ月間の試行導入の承認など、経営層に求める具体的なアクションを明記します。
この1枚を見るだけで、提案の全体像とメリットが理解できるよう構成することで、後の詳細説明をスムーズに進めることができます。
導入事例を交えて成功イメージを共有する
提案の信頼性をさらに高めるためには、自社と類似した業種や規模の企業におけるワークフロー導入事例を盛り込むことが非常に有効です。
例えば、「〇〇工業様(同業他社)でも、同様の見積承認業務の課題をワークフローシステムで解決し、承認時間を50%削減した実績があります」のように、具体的な企業名や数値を挙げて紹介することで、経営層は「他社で成功しているなら、うちでも成功できるだろう」という具体的な成功イメージを抱きやすくなります。
ワークフローシステムのベンダーのウェブサイトには、多くの導入事例が公開されていますので、積極的に活用し、自社の提案に説得力を持たせましょう。成功イメージを共有することで、経営層は導入への不安を解消し、前向きな判断を下しやすくなります。
失敗しないワークフローシステムの選び方【5つの比較ポイント】
ワークフローシステムの導入を経営層から承認された後、次に直面するのは「どのシステムを選ぶべきか」という課題ではないでしょうか。世の中には数多くのワークフローシステムが存在し、どれが自社に最適なのかを見極めるのは容易ではありません。ここでは、皆様がツール選定で失敗しないために、特に重要となる5つの比較ポイントを実践的に解説します。これらの基準をもとに比較検討することで、自社のニーズに合致し、かつ将来性のあるシステムを選び出すことができるでしょう。
ポイント1:操作性(現場が直感的に使えるか)
どんなに高機能で優れたシステムであっても、実際に業務を行う現場の従業員が使いこなせなければ、その価値は半減してしまいます。特に、日々の申請業務は多くの従業員が関わるため、ITツールに不慣れな人でも直感的に操作できる「わかりやすさ」が非常に重要です。例えば、申請フォームの入力が簡単か、承認操作はスムーズに行えるか、スマートフォンからの操作性も考慮されているかといった観点で評価しましょう。多くのワークフローシステムでは無料トライアル期間が設けられていますので、この期間中に実際に現場の複数の従業員に試してもらい、率直なフィードバックを得ることを強くおすすめします。現場からの「これなら使えそう」という声が、システム導入の成功には不可欠です。
ポイント2:機能の柔軟性(自社の承認ルートに対応できるか)
日本の企業では、承認プロセスが非常に複雑であるケースが少なくありません。例えば、「〇〇円以上の申請は部長承認に加え、経理部長の承認も必要」「この案件はA部長とB部長の両方の承認が必要(並列承認)」「申請内容や金額に応じて承認者が自動で切り替わる(条件分岐承認)」など、細かなルールが存在します。ワークフローシステムを選定する際は、自社のこのような複雑な承認ルートを、システム上で柔軟に設定し、再現できるかどうかを必ず確認してください。また、設定のしやすさ、つまり管理者側が特別なプログラミング知識なしに承認ルートを構築・変更できるかどうかも、運用負荷を考える上で重要な評価ポイントとなります。
ポイント3:提供形態(クラウド型 vs オンプレミス型)
ワークフローシステムの提供形態は、大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類があります。クラウド型は、インターネット経由でベンダーが提供するサービスを利用するため、自社でサーバーを構築・管理する必要がありません。初期費用を抑えられ、短期間での導入が可能で、運用管理の手間も少ない点が大きなメリットです。一方、オンプレミス型は自社サーバー内にシステムを構築するため、セキュリティポリシーに合わせた細かなカスタマイズが可能で、既存システムとの連携も柔軟に行えるという特徴があります。しかし、初期費用や構築期間、運用管理コストは高くなる傾向にあります。皆様のような中堅企業で、まずはスモールスタートを目指す場合は、手軽に始められるクラウド型が主流であり、コストと導入スピードの面でおすすめです。
ポイント4:システム連携(既存ツールと連携できるか)
ワークフローシステムは単体で導入するだけでなく、現在社内で利用している他のシステムとの連携によって、さらなる業務効率化が期待できます。例えば、基幹システム(ERP)から申請に必要な情報を自動取得したり、グループウェアのスケジュールと連携して承認者が不在の期間を考慮したり、承認完了後にチャットツール(SlackやMicrosoft Teams)へ通知を送ったりといった連携が考えられます。既存の会計システムや人事システムと連携できれば、「承認が完了したら、会計システムにデータを自動で渡す」といった形で、手動でのデータ入力の手間やミスをなくすことができます。API(Application Programming Interface)連携機能が充実しているか、あるいは既存ツールとの連携アプリが提供されているかどうかを確認することが、選定の重要なポイントとなります。
ポイント5:サポート体制と導入実績
システム導入は、ツールを選んで終わりではありません。導入時の初期設定や、運用開始後の不明点、トラブル発生時の問い合わせ対応など、ベンダーのサポート体制は非常に重要です。電話、メール、チャットなど、どのようなチャネルで、どの時間帯にサポートが受けられるのかを確認しましょう。また、自社と同じ業種や規模の企業への導入実績が豊富かどうかも、ベンダーの信頼性を評価する指標になります。実績が多いベンダーは、その業界特有の業務慣習や課題を理解している可能性が高く、スムーズな導入支援や的確なアドバイスが期待できます。導入実績が公開されている場合は、ぜひ確認してみてください。
まとめ
この記事では、ワークフローシステムが単なる便利なツールではなく、業務プロセスの「見える化」から始まる経営改善活動そのものであることをお伝えしてきました。紙やExcelによる非効率な運用から脱却し、業務の停滞や属人化のリスクを解消するためには、ワークフローのシステム化が不可欠です。
しかし、経営層を動かすには、漠然とした「効率化」だけでは不十分です。本記事でご紹介したように、現状の課題を定量的に把握し、システム導入によって得られる具体的な効果をROI(投資対効果)として示すことが重要になります。そして、まずは一つの業務からスモールスタートで効果を測定し、その成功事例を社内で共有していくことが、経営層の理解と承認を得て、全社的な業務改革へとつなげる最も確実な方法です。
業務改善の担当者として、あなたが社内の「変化を成功させる人」になるための第一歩は、この「見える化」から始まります。本記事が、その具体的な道筋を描く一助となれば幸いです。